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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)183号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨、先願の明細書の特許請求の範囲の記載及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、後願に係る本件考案と特許出願変更前考案とが、テレビを使用して後姿を含む全姿を写し見ることができる装置であるという重要な部分において重複しているにもかかわらず、右の点を看過した結果、本件考案と先願発明とは同一のものということはできないとの誤つた結論を導いたものであつて、この点において違法として取り消されるべきである旨主張するが、以下に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であつて、原告の右主張は理由がないものというべきである。

前記当事者間に争いのない先願の明細書の特許請求の範囲の記載によれば、先願発明は、被写体である人物(自分)の背後側にビデオカメラ又はテレビカメラを配置し、その前側に回路を接続したテレビ受像機を見易い場所と角度に調整して配置する、という構成からなるものであつて、右の構成により、被写体である人物(自分)が直接見ることができないその後姿を見ることができるという効果を奏するものと認められる。一方、前示本件考案の要旨に成立に争いのない甲第九号証(本件考案の実用新案出願公告公報)によれば、本件考案は、閉回路テレビジヨン装置に関する考案であつて、前示本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載と同じ。)のとおりの構成を採用することにより、テレビ受像機の非作動時には、照明光の反射によりハーフミラーが普通の鏡として機能しているから、被理髪、美容者の正面光像がそのまま対面のハーフミラーに写し出され、テレビ受像機の作動時には、テレビ受像機が光源となるため、ハーフミラーが透明ガラスとして作用し、テレビ受像機のブラウン管面に現れた被理髪、美容者の後部あるいは左右の映像を対面のハーフミラーを通して見ることができ、被写体に対向する鏡体で見えない個所をあらゆる角度からも撮影可能とし、その映像をテレビ受像機のブラウン管面に写し出すことができ、従来合わせ鏡など店員のサービスで行われていた被理髪、美容者の自ら見えない個所の監視が被理髪、美容者の手で自在に行うことができるという作用効果を有するものと認められる。原告は、本件考案と特許出願変更前考案とを対比すべきである旨主張するが、前記当事者間に争いのない特許庁における手続の経緯に成立に争いのない甲第五号証の一並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、昭和四五年五月一二日に原告がした特許出願変更前考案の実用新案登録出願は、昭和五五年一月一一日特許法第四六条第一項の規定によりこれを特許出願に変更したことが認められるから、右実用新案登録出願は、昭和六〇年法律第四一号による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第四六条第五項及び第四五条第五項並びに実用新案法第七条第四項の規定により取り下げられたものとみなされ、先願たる地位を失つたものであり、出願変更に係る先願発明の特許出願は改正前特許法第四六条第五項及び第四四条第二項の規定により右実用新案登録出願の時にしたものとみなされるのであるから、本件考案と対比すべきは、特許出願変更前考案ではなく、先願発明であるというべきである。したがつて、原告の右主張は、採用することができない。

そこで、前認定したところにより、本件考案と先願発明とを対比するに、本件考案におけるテレビカメラ3とモニタ用のテレビ受像機6と椅子1が、先願発明のテレビカメラ2とテレビ3と被写体である人物1が位置する場所に各対応するものと認められるところ、先願発明は、本件考案の構成要件である、<1>ハーフミラー7を設け、このハーフミラーの後側にモニタテレビ受像機の表示部を近接して配置して、モニタテレビ部を構成し、<2>椅子1の回転軸と同軸状の回転の中心を有するカメラクレーン4の端部に、操作部5でカメラ仰角、回転角が制御できるようにバランスヘツド式の雲台を介してテレビカメラを取り付け、<3>カメラ制御部、映像調整部、クレーン制御部及びモニタ制御部からなる制御部を設ける、という構成を有しておらず、しかも、本件考案は、右構成の組合せによつて先願発明にみられない前認定のとおりの優れた作用効果を奏するものであるから、先願発明と本件考案が同一であるということができないことは明らかである。原告は、この点に関して、特許出願変更前考案と本件考案とは、テレビを使用して後姿を含む全姿を写し見ることができる装置であるという重要な部分において重複しているから同一である旨主張する。しかし、特許出願変更前考案と本件考案とを対比すべきでないことは、前説示のとおりであり、右原告の主張が先願発明と本件考案とは、テレビを使用して後姿を含む全姿を写し見ることができる装置であるという重要な部分において重複しているから同一であるとの主張を含むものと解するとしても、先願発明と本件考案とが前認定のとおりその構成及び作用効果を異にする以上、両者をもつて同一のものとは到底認めることはできず、したがつて、原告の右主張も採用するに由ない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本件考案の要旨は左のとおりである。

理髪あるいは美容用の椅子1と、この椅子に対向する鏡をハーフミラ7で構成し、このハーフミラの後側にモニタ用のテレビ受像機6の表示部(ブラウン管フエイス部)を近接させて設置したモニタテレビ部と、上記椅子1の回転軸と同軸状の回転の中心を有するカメラクレーン4の端部に操作部5でカメラ仰角、回転角が制御できるようにバランスヘツド式の雲台を介して取付けられたテレビカメラ3と、このテレビカメラの出力をケーブルを介して入力する前記モニタ用のテレビ受像機6と、カメラ制御部、映像調整部、クレーン制御部およびモニタ制御部からなる制御部5により被写体に対向する鏡体で見えない個所を前記テレビ受像機に映像として表示し得るようにしたことを特徴とする閉回路テレビジヨン装置。

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